秋田地方裁判所 昭和28年(行)18号 判決
原告 赤坂新吉
被告 六郷町議会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
一、請求の趣旨
被告がなしたる
(1) 昭和二十七年六月二十四日附議案第九号建物購入の件
(2) 同日附議案第八号建物売却の件
(3) 同年八月二十五日附議案第一号樹木売却の件
(4) 同二十八年三月二十六日附議案第二号一時借入金の件
(5) 同年三月三十一日附議案第二十四号学校建築請負費支出の件
の各議決の無効であることをそれぞれ確認する。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めた。
二、原因事実
(一) 原告は六郷町の住民であるが、被告は六郷町町長高橋誠一郎提出に係る(1)昭和二十七年六月二十四日附秋田県仙北郡六郷町字馬場百番地所在建物延坪五百坪、この購入代金二百万円に関する議案第九号建物購入の件(2)同日附右購入建物につき昭和二十八年八月十日金二百五十万七千六百七十一円にて売却した事案に関する議案第八号建物売却の件(3)同年八月二十五日附秋田県仙北郡六郷町東根字潟尻竜川一の百七番及び同一の百十番所在の町有山林、この材積四千七百石を昭和二十七年度一般歳入及び六郷高等学校建築費に充当するため代金六百四十四万八千六百四十九円にて売却した事案に関する議案第一号樹木売却の件(4)昭和二十八年三月二十六日附昭和二十八年度歳出予算内の支出をなすため一時借入金として金五百万円の借入をなす議案第二号一時借入金の件(5)同年三月三十一日附昭和二十七年度六郷高等学校建築特別会計歳入歳出予算中における右高等学校建築費金六百十六万五千五百五十八円の右学校建築工事請負費支出に関する議案第二十四号学校建築請負費支出の件の各議案につきそれぞれ議決し、町長は右各議決に基きそれぞれ執行処分をなした。しかしながら右の如き町有財産並びに営造物の取得、処分等に関する事項については町条例を制定し、該条例に従つてはじめて議決し得ることは地方自治法第二百十三条の規定に徴し明らかであるところ、被告は該条例の制定がないのに拘らず、町長提出の前記町有財産等に関する各議案を議決したのは同法に違背する無効の行政処分である。
(二) そこで原告は先に六郷町監査委員に対し右議決に基いて執行機関たる町長のした町有財産等の処分が違法なりとして監査を請求したところ、同委員会がその監査の結果前記(3)議案第一号の議決に基き売却処分に付した樹木の売却代金六百七十四万八千六百四十九円については特別会計を設けなかつたゝめ不当に支出浪費し、現在皆無の状態にあることが判明した。又先に違法な議決処分により前記(1)の六郷町字馬場百番地所在の建物を購入しながら一転して直ちに売却の議決処分に付し昭和二十八年八月十日公売の結果その一部は売却済となつている。かくの如く法を遵守せずして非合法無軌道にも万事被告の議決処分により町政を執行されるため、六郷町は現在破産の状態に陥つているが、原告は従来からこれを憂慮し、今日までに被告及び執行機関たる町長に対し口頭は勿論要請書、要求書、勧告書等を提出すること四十数回、町政批判大会を開催すること数回にわたつて被告等の反省を促したが、書面に対しては一向に応答なく、しかも前記の如く違法なる行為を是認して各議案を議決した被告の行政処分は地方自治法第二百十三条に違背した無効のものであるから、その無効確認を求めるため本訴請求に及んだ次第であると述べた。
被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として次のとおり述べた。
一、原告主張事実中原告が六郷町の住民であること、被告が六郷町町長高橋誠一郎提出に係る原告主張の(1)ないし(5)の各議案をそれぞれ議決したこと、及び右議決当時六郷町において地方自治法第二百十三条により町有財産並びに営造物の取得、処分等に関する町条例を定めていなかつたことは認める。
しかしながら原告が本訴において訴求しているのは被告町議会の議決の無効確認を求めているのであるが、右議決は確認の訴の訴訟物たり得ないから本訴請求は理由がない。即ち
原告の本訴請求は被告を相手とし一町住民の立場から被告のなした財産の取得、処分並びに予算に関する前示議決の無効を主張し、これが無効確認を求めるものであるが、該議決自体は町の内部的意思決定であつて、それ自体直接に法律関係を形成、変更又は確定する効果を伴ういわゆる行政処分に該当せず、従つて地方自治法その他の法において何等の特別規定がない現行法の下では確認の訴の訴訟物たり得ないのである。仮に原告の主張を善意に解し議決をもととしてなされた六郷町長の執行処分の効力を争う趣旨のものとするならば、執行機関の処分の効果を被告に対し無効確認を求める本訴請求は被告適格を誤つたものというべきである。更に又確認訴訟は民事訴訟法第二百二十五条の如き特別規定がない限り、現在の法律関係に限られかつ即時確定により原告の現実の法律上の危険が除去せられる場合に限り許さるべきものであるが、原告の本訴請求は過去の事実に関するものというべく、そうでないにしても被告の右議決の無効がひいて執行機関の処分を無効ならしめるものと解しても原告がそれによつて如何なる法律上の地位の安定を害されたかの具体的事実については何等主張するものがないばかりでなく、仮に本議決により例えば原告の納税に影響するものとしても、かゝる抽象的な関係において原告に現在の法律上の地位に危険があるとはいゝえず、結局原告の本訴請求は確認の利益がない。
そうだとすれば本訴は議決が法律上無効なりや否やの点について判断をまつまでもなく、既に以上の点において失当として棄却を免れないものと思料する。
二、仮に以上の主張が容れられないにしても、原告の本訴提起後である昭和二十八年十月三十一日六郷町において六郷町有財産並びに営造物に関する町条例が制定され、即日公布されたが、同条例において本件議決と同一内容に関する事項につき規定し、同条例附則第三項により右条例施行前の町有財産並びに営造物についてなされた手続その他の行為は右条例によつてしたものとみなされることになつたので、前示被告のした議決も何等違法でないことになつたから原告の本訴請求は理由がない。
三、理 由
被告議会が原告主張のような六郷町長高橋誠一郎提出の(1)ないし(5)の議案につき原告主張のような議決をしたことは当事者間に争がない。
原告は被告のした右議決を行政処分であるとしてその無効確認を求めているけれども、右議決は議員に対する懲罰の議決と異り、町の内部的意思決定たるにとゞまるから、それ自体独立して直接に議決の内容に応ずる法律関係を形成、変更、消滅せしめる効果を生ずるものではなく、該議決に基いて執行機関たる町長が執行した場合にはじめて法律関係の形成、変更、消滅を生ずるものであり、この長のなした行為が即ち行政処分というべきものであるから、被告のした右議決をもつて直ちに行政処分ということはできない。しかして右のような町の内部的意思決定に過ぎない議決については特別規定のない現行法の下では被告を相手として無効確認の訴を提起し得ないものといわなければならない。もつとも原告が地方自治法第二百四十三条の二第四項の事由ある場合には六郷町長高橋誠一郎等を被告として、同町長のした執行処分の取消又は損害賠償等の訴を提起し得ることは別論である。
よつて原告の本訴請求は他の争点につき判断をなすまでも排斥すべきものとし、訴訟費用については民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 小嶋彌作 安岡満彦 松本武)